好きデス。
大好きデス。
暖かい腕に包まれて目覚めると一番にそう思う。
実は寝起きがあまり良くない主任はまだ夢の中。
昨日少しだけ様子がおかしいような気がしたけれど、一緒にお家に帰るといつものようにのだめの髪を乾かしてくれたし、のだめが大好きな甘いアイスもくれた。
ベッドで寝る時もいつもどうり一緒ででも少しだけ強く抱きしめられた気がしたのはきのせいなんデショウカ??
いまだ気持ちよさそうに眠る人の顔をジッと見つめ首を傾げてみる。
男の人なのに綺麗な寝顔。
なんだかズルイ。
自分より綺麗な男の人に恋しちゃったのだめは大変ナンデスヨ。
むぅっと一人で唇を尖らせてみるけれど主任はやっぱり気づくことなく夢の中。
すやすやと気持ちよさそうな寝息まで立ててマス。
そんな顔を見ているとちょっとおもしろくないけれど、でもすごくすごく幸せ。
ニマっと顔がにやけちゃいマス。
そしてツンと指で滑らかな頬をつつくとうーんとかわいらしいうめき声を出して主任はのだめをギュウッと抱きしめてくる。
綺麗な寝顔とさらさらの黒髪が近づいてのだめはドキドキデス。
そして辺りをチラリと確認。
誰も居ないにきまってるんデスケド一応。
そしてむき出しになったおでこにチュッと軽くキスをした。
むきゃー!!
ドキドキデス!!
昨日気づいてしまった気持ち。
だけど気づいたらもう止められマセン。
のだめは千秋主任が大好き。
思い出の男の子よりも。
誰よりも。
「…のだめ?」
顔を真っ赤にしてほやーっと考え事をしているとかすれた声に呼ばれる。
顔を向けると同じように顔を真っ赤にした主任と目が合ってしまった。
「ふへ!?」
「おまえ…今…?」
驚いた顔をした主任。
それにのだめの頭は一気に血が上ってしまう。
なんで主任が起きてるんデスカ!!?
そう叫びたいのに口はうまく動かなくてパクパクするだけ。
そりゃあもう気持ちを告げようと思ってマシタヨ?
でもこんなの予定外すぎデス!!
何も言えないのだめに主任は小さく息を吐いた後苦笑してベッドから体を起こした。
そしてポンポンとのだめの頭を撫でてくれる。
「おまえ、ああいう事他のヤツとかに気軽にするなよ…。」
「し、しないデス!!」
主任の言葉に反射的にそう返すと主任は驚いたように目を見開いた。
けれどすぐにいつもの優しい顔になる。
「ああいう事は好きなヤツにしかするもんじゃねーだろ?だからいくら一緒に住んでても俺にもするもんじゃない。」
そう言って主任は少し自嘲気味に笑ってベッドから立ち上がると部屋を出て行ってしまった。
そしてベッドにはのだめが一人ぽつんと残されてしまった。
ギュウッとシーツを握り締める。
そりゃあのだめは綺麗じゃないし、かわいくもないし、スタイルだって良くないし…。
その上頭は良くないし…。
エリートの千秋主任を好きになるなんてホントに身分不相応だと思うけれど、ちっともこれっぽっちもその可能性を考えてはくれないんだと少し悔しくなる。
仕方ないんデスヨネ…。
わかってマス。
この間まで思い出の男の子が運命だなんて言ってたんデスカラ…。
だけどわかって欲しい。
気づいて欲しい。
今のだめはあなたが大好きってコトを。
ムシがいいって言われてもこの気持ちは消せないから。
そのまま勢いをつけて起き上がるとベッドから飛び上がるようにして降りてそのまま主任の後を追うように部屋を飛び出した。
バタンと派手な音をたててドアが開く。
それに驚いたのか主任がキッチンから顔を出した。
そこにのだめは駆け足で近づく。
「どうした?」
「好きなんデス!」
「は?」
「のだめは主任が好きデス!!」
大きな声でそう言うと主任の目が大きく見開かれる。
そしてカランと床に何かが落ちた音がした。
視線を落とすと主任が持っていたらしい銀色のスプーン。
顔を上げるとそれに未だ反応できないらしく固まったままの主任。
そして何度かぎこちない瞬きをする。
主任がどう答えをくれるのかそう思うだけでのだめは心臓が壊れそうだった。
ギュウッと手を握り締めた。
ゆっくりと黒い綺麗な瞳がのだめを捉えて、一瞬見つめあったけれどすぐに主任は目元を緩めた。
「朝からバカな事叫んでないで顔洗ってこいよ。」
そして屈んで落ちたスプーンに手を伸ばす。
キュウッと心臓が痛い。
目が痛くなって、ここで泣いたらダメだと思うのに目の周りが熱くなってそれは自分でどうする事もできなかった。
ポタリと床に雫が落ちる。
それに主任はすぐ気づいたのか一瞬動きを止めてそれからすぐにのだめを見た。
泣き顔なんて見られたくない。
ぎゅうっと目を瞑って手の甲で目を押さえた。
答えはくれなかった。
そんなにありえない事なのかな?
バカな事。
主任にはバカな事なんだ。
そう思ったら辛くて辛くて胸が痛かった。
「のだめ?」
心配そうな主任の声が聞こえる。
だけどそのまま踵を返して走るとそのままさっき出てきたばかりの主任の部屋へと逃げ込んだ。
「のだめ!?」
慌てたような主任の声が聞こえたけどそのまま部屋の鍵をかけてさっきまで幸せを感じていたベッドに体を沈めた。
のだめは主任にとってそういう対象じゃないんだ。
だから一緒に暮らせるし、一緒に眠れるんだ。
そんな事に今気づいた。
のだめには運命の人が居たからだから主任ものだめをそばにおいて置けたんだ。
自分を好きにならない女の子だから。
じゃあ、もうのだめはココに居られない?
主任の傍には居られないのかな??
泣いて泣いて気がついたら眠ってた。
「会社サボっちゃった…。」
目が覚めたらお昼はとっくに過ぎていてヒリヒリと痛む目元を押さえながら目覚ましを見つめた。
主任はもう仕事に行ってしまっただろう。
重い体を起こしてそっとドアを開ける。
思った通り部屋の中には人の気配は無くて少しホッとして部屋から出た。
キッチンに行くとちゃんと作って行ってくれたらしくラップがかけられたお皿が置かれていた。
のだめが大好きなフレンチトーストとオムレツ。
走り書きのような文字でメモには鍋にスープと書かれていた。
お鍋を覗くとこれものだめが大好きな具がたくさん入ったコンソメスープ。
どうしてこんなに優しくしてくれるのかな?
きっと主任はわけわかんなかったに違いないのに。
急に泣いて部屋に篭っちゃったメンドクサイのだめなのに。
またポロポロと涙が溢れてくる。
そして主任が作ってくれた大好きなごはんを食べる。
そしたらもっと涙が溢れてきた。
大好き。
こんなに大好き。
もう傍に居られなくなっても、この気持ちを隠してすごすよりはマシ。
だってもう溢れちゃってるから。
それをせき止めるなんてできないデス。
涙を腕で乱暴に拭ってそして頬をパンと叩いた。
女は度胸デス!!
ダメなら仕方ない。
でも諦めるなんてしたくないから。
もう一度想いを伝えよう。
あなたが大好きデスって。
そう決めたら心が軽くなって大好きな人が作ってくれた大好きなご飯をおなかいっぱい食べた。
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