俺がその子に初めて会ったのは高校2年の時。
少し跳ねた薄茶色の柔らかそうな髪と大きな目が印象的だった。
ちょっとした美少女。
女友達はたくさんいたけど初めてドキッとした女の子だった。

おずおずと親友の制服の影に隠れこちらを伺う様子は小動物みたいで、
目が合うとちょっとビックリした顔をして次の瞬間には笑ってた。

親友は口だけの悪態を付きながらもその小さなかわいらしい女の子を大事にしているのがすぐわかった。

だって誰にも見せないような。
中学校からずっと一緒に居た俺でさえ見たことない優しい笑み。

そんな親友の見た事のない表情にビックリしている俺とは違い、
その笑顔をいつも向けられている女の子は普段近寄りがたいなんて言われている親友の手を自然に
握り顔を近づけひそひそ話をしていた。
それに柔らかく笑う親友。

女の子の髪を撫で頬を撫でる優しい手。

なんだか映画でも見てるみたいな綺麗でふわふわとした2人の姿に俺はバカみたいに突っ立って
2人を見ていた。

当時親友、千秋には恋人がいた。
綺麗な女の子。
学校のマドンナなんて言われてた、お金持ちの美女といる時よりも柔らかく甘い空気を作り出している
千秋に俺は少しだけ呆れた。

本命がいるならさっさと美女とは別れろよ。

だってそうしないと他の奴らにチャンスが回ってこねーだろ。

千秋に守られた女の子は気づいていなかったかもしれないが、千秋はとっくに自分の気持ちを知っていたと思う。

だって彼女の誕生日をすっぽかして熱を出した使用人の娘の傍にいるなんて普通じゃ考えられないだろ?
妹でもない。
ただの使用人の娘。
そんな風に千秋は言ったけど態度がすべてを否定してた。

愛しい。
大事。

そしてすべてのものから守ってやると言わんばかりの彼女を抱く腕。

そういや彼女に告白して強引に付き合おうとした男は千秋にボコボコにされたっけ?
しかも捨て台詞が「俺のモンに二度と触るな!」だったよな。

あれでマドンナとの恋はエンド。

ようやく付き合うのかと思ったらまたしばらくして千秋は別の女と付き合いだした。

なぁ、オマエってホント不器用。
好きなら好きって言えばいいじゃん。

「あいつは俺の事親みたいに慕ってんだよ。いまさら男になんてなれない。」

…バカじゃねー、どう見たって彼女もオマエを好きだろ?

「みーねーくーん。」
大きな声で駆けてくる小さな女。
何年たっても小動物っぽいところは変わらない。
彼女の後ろでいつかこけるんじゃないかとひやひやしている男は俺の親友。

親友の予想どうり彼女は俺にたどり着く前に前のめりに躓いた。

あ。

顔面から落ちる。

豪快なズッコケシーンが見れると思ったのに彼女はこけずに後ろから慌てて腕を伸ばした親友に抱きかかえられている。
何年たっても相変わらず。
彼は彼女を守ってる。

彼女は相変わらずの笑顔。
千秋は相変わらずの呆れた顔。

でも2人はとても幸せそう。

のだめの首には少し高そうな赤いルビーのネックレス。
もちろん千秋のプレゼント。

なぁ、親友。

おまえのだめに一生気持ちなんか言わないって言ってなかったか??

今じゃ公害か!?ってくらいの甘甘バカップル。

 

彼は彼女を大事に大事に真綿で包むように守って。
彼女は彼に守られながら彼に幸せをたっぷりと与えてる。

ずっと変わらない事。

だけど今は彼女が彼を抱きしめて、
彼が彼女に守られながら彼女に幸せを与えてたりする。

これは変わった事。

お前たちの気持ちはずーっと一緒なようで毎日変化してる。

それを近くで見てるのも楽しいもんなんだよ。

あの高校2年の初めて2人を見た日から、俺はお前らが幸せであるように願ってる。

end