うちにはメイドがいる。
と、言っても何も出来ないので生活面でのサポートの期待は皆無。
料理をさせれば、そこらじゅうを汚して皿割って、あげくの果てに出来るモノは
おにぎり以外は殺人メニュー。
掃除も出来ないくせに汚すのは人一倍。部屋なんか俺が定期的に掃除してやらな
いとあっという間にごみ部屋。
洗濯も下手だし、ほんと家事全般の一般的な才能をどこかに落としてきたらしい

で、なんでそんな役立たずなメイドを首にせずに雇っているかというと、つまり
はまぁ、たぶんそういうコトじゃないかと思う。

俺はその欠点だらけのメイドを気に入っているし大切にしているから。

手放すつもりもないし、他のメイドもいらない。
俺だけの可愛くて愛しいメイドでいて欲しい。

まぁ、俺はそのメイドに恋をしていて何も出来なくてもいいからずっ
と笑顔で俺の側にいて欲しいんだよ。

 

「ご主人サマ!のだめにもなんかお仕事下サイ。」
ようやく仕事から解放されて戻ってきた我が家の玄関のドアを開けるなり待ち構
えていたかのようにうちのメイドか飛び出してきた。
それなりに高級に入る部類のマンションだが白いヘッドドレスとふんわりとした
スカートの紺のワンピースとゴテゴテとしたフリルやレースのついたエプロンな
どのいわゆるメイド服を着たメイドなんか雇ってる家はないだろう。
その姿は文句なしにかわいいのだが、同じマンションの住人に見られたら間違い
なく変な噂の元になるのは間違いないので、とりあえずのだめを部屋に押し込ん
だ。

「バカ!その服で家の外に出るなって言ってるだろーが。」
「むぅ。このカッコ変ですか??」
ちょっと頬を膨らませて上目使いにこっちを見る姿はヤバイくらいにかわいいが
ここは耐えてキッチリいい聞かせておかないと後々自分の首を絞めることになり
かねない。
...それにこのかわいい姿を他の誰にも見せたくないし....

とりあえずのだめをリビングまで押し戻し、自分も中に入る。
鞄をソファーに置いて振り向くと頬を膨らませたままののだめ。
「で、なんだって?」
「のだめにもお仕事下さい。」
のだめはそう言って手をひらいて白い柔らかそうな腕をこちらに伸ばしてきた。
「仕事なら今日朝言っただろ。自分の部屋の掃除。出来たのか??」
「うっ...」

やっぱりやってなかったらしくのだめは気まずそうにうめいてから目を反らした。
俺は小さく息を吐き出し、形のよい小さな頭を撫でる。
「お前の当面の仕事は自分の身の回りの事をすることだ。」
「でも....、のだめメイドさんなのにご主人サマのお役に全然たってないし...」
柔らかそうな赤い唇を尖らせて呟くその姿は鼻血もののかわいさ。
「俺の役に立ちたいわけ?」
「はい。のだめが出来るコトならなんでもシマス!」拳を作って力説する姿に自
然と口許が緩む。
しかし急に仕事と言われても...
かわいいし愛しいが家事をさせるには不安すぎる無器用さののだめ。
家だろうが俺が仕事でいない時に何かあったらと思うと迂濶なコトは任せられな
い。

買い物はいつも俺が休みの日に2人で行ってまとめて買うか俺が帰りに買いに行
くかだし、掃除は無理、料理も無理、洗濯もなぁ...
俺はのだめの頭に手を置いたまましばらく考え込む。いい案が浮かばない。
お前には無理だと言いきってしまえば良いのかもしれないが俺を見上げるのだめ
の顔が結構期待に輝いてるのを見るとそうとも簡単に言えない。

俺ってこいつに相当甘いよなぁと思う。
かと言って良い案もないけど...

考えながらもつい違うところに目がいってしまう。

のだめの顔を見下ろす。
赤く濡れた唇につい目がいく。
キスしたいな。
いまだ触れたことのないソコはきっと柔らかくて暖かいだろう。

急に邪な考えが頭に浮かぶ。
バカだと思うのに思い付いたコトに心惹かれる

長年思ってきたコト。
もしかしたら叶うんじゃないか??

「なにかないデスカ?」
「ほんとなんでもいいの?」
「はい!のだめに二言はありマセン!!のだめ、ご主人サマのお役に立ちたいん
デス!」
鼻息荒くのだめはそう言いきると俺のシャツを引っ張る。

言うならタダだよな。
もともとこんなコト頼むのは仕事とは言えないし。
言って叶えばラッキーってコトで。

「じゃあさ。」
「ハイッ!」
俺の言葉にのだめは元気良く返事を返す。
そんなのだめに満足して口許を緩めたまま希望を口にする。

「キスして。」

「ふぇ...?」

一瞬の間の後、のだめの口からはなんとも間抜けな声が漏れた。
口もポカンと開いている。
やっぱマズかったか?
大きな丸い目をパチパチと何度も瞬きさせるのだめにやっぱりマズかったかと不
安がよぎる。

「あー。やっぱじょうだ....」
冗談にしてしまおうと口を開いたがすべての言葉を言いきる前に頬に柔らかな感
触。
それがのだめの唇だと気付くのに数秒かかってしまった。

のだめの唇が触れた頬を指でなぞる。
ヤバイ。
顔が熱い。
予想以上に嬉しくてドキドキする。

ぼんやりとする俺にのだめは首を傾げて覗き込んでくる。

「こんなのでいいんデスカ??」
「あ...あのさ」
「ハイッ!」
「出来れば口に...」
人間の欲とは恐ろしい。
気が付けば口から新たな希望が漏れていた。
のだめは俺の言葉にパチクリと瞬きをする。
「口にデスカ?」
「うん。」
やっぱさすがに急にそれはダメだよな...と思いつつも希望が見え隠れする。
のだめはどう考えてるかわからないが嫌そうではない。少し考える仕草をしてい
る。

「のだめ初心者だから、上手く出来ませんよ?」
迷いながらもそう口にするのだめに口許がだらしなく緩むのを必死に押さえる。
「いいよ。俺が教えてやるから。」
内心ガッツポーズをしながら表情は平静を装いのだめの頬を撫でる。

「のだめがキスしたらご主人様は嬉しいデスカ?」
「うん。」
「癒されマス?」
「うん。」
無駄に力込めて頷く。
第三者から見るとかなり滑稽な姿だろうと思う。
だけど俺の言葉にのだめはふわりと嬉しそうに笑うからそんなことはどうでもよ
くなる。

「じゃあシマス!」
「...ほんとに?」
「ほんとデス。」
ほんのりと頬を染めて俺を上目使いに見るのだめ。
ゆっくりと腕をのばしふんわりとしたスカートに包まれた腰を抱いて引き寄せる

のだめは俺にされるがまま体を密着させると俺のシャツを軽く掴んだ。

少し深呼吸。

暴走しそうになる自分を戒めながらゆっくりと顔を近付けていく。

のだめは近付く俺の顔にびっくりしたような顔をしたがすぐにギュッと強く目を
瞑った。

ゆっくりと唇が重なる。

それは思っていた以上に甘くて柔らかかった。

チュッと軽く合わせるのを何度も繰り返す。
暫くすると合わせるだけじゃ足らずに食むようにのだめの唇を包み軽く吸う。

「ふっ、うぅっ。」
初めての行為にのだめは苦しくなったのか鼻に抜けた甘い声を出す。

チュッと音を立てて唇を離すと赤い顔ののだめが見えた。

ヤバイ。
ヤバイ。
ヤバイ。

...これは癖になる。

思った以上にに甘くて柔らかい唇も下半身を重くするかわいい声も。

そして濡れた目元と赤く上気した頬に息が荒くなる。
もっとキスしたい。

「もっとしていい?」
「ハイ...」

顔を赤くしながらも頷くのだめの頬を片手で包み、もう一度唇を寄せる。

今度は初めから柔らかくのだめの唇を包み、下唇と上唇を交互に軽く吸う。
吸うたびにのだめは甘い吐息を洩らし、ギュッと俺のシャツを掴む手に力を入れ
る。

甘くて眩暈がするような濃厚な時間。
俺は長年夢見てきた唇を夢中で味わった。

唇を離すとのだめはほわりと笑う。
その笑顔にみっともなくドキドキしたりしてごまかすように額にキスをした。

「ご主人様?」
「ん?」
「大好きデス。」
「ん。」
緩む顔を必死に堪えながら何度も柔らかい髪を撫でて抱き締める。

少し赤く染めた目元がかわいい。
そんな姿に愛しさでおかしくなりそうだ。

「キス出来そう?」
「がんばりマス!」
何故か気合いを入れるのだめを笑ってもう一度だけ触れるだけのキスをした。

「次はお前の番。これから俺が出掛ける前と帰ってきた時にしてもらうからな。
練習。」
ほらと促すと頬を赤くしてそれでもすぐに爪先立ちになって俺の唇へ軽く自分の
それを触れさせた。

「これだけ?」
真っ赤になったのだめをからかうとちょっとすねた顔をして伸ばしてきた手で俺
の頬をつねった。

「いてーよ。」
軽い痛みに苦笑するとプイと顔を背けれる。
「初心者ののだめにはこれが精一杯なんデス!」

「うん。いーよ、ありがと。嬉しいし、癒されたよ。」
髪を撫でながら言うと弾かれたようにのだめが顔を上げた。
「ほんとデスカ?」
「うん。」
頷いてやるとぱぁと笑顔になってギュウっと抱きついてきた。

「そう言えば、まだおかえりって聞いてないんだけど?」

俺の言葉にのだめは俺の胸に埋めていた顔を上げて幸せそうに笑う。

「おかえりなさいませ、ご主人様。」

そして触れるだけのかわいいキスをくれた。

俺だけのかわいいメイド。いつでも俺だけを癒して。

end