君に世界一の笑顔をさせてあげられるのは俺でいたいんだ。

「まさかおまえとのだめが付き合うとはなー。」
今日も何故か隣の席に陣取った峰がまったく講義を聞く気もないのか体を机の上に投げ出してケータイをいじりながらそう言った。
それに俺は真面目にノートをとっていた黒板から目を離した。
「は?」
「いやー、のだめってかわいいけど変態だし。」
「煩い。」
自分の愛しい彼女を良く知っているとはいえ、そんな風に言われると面白くない。
なんだか仲の良さを思い知らされるようだから。
しかしそんな俺の心の中を知らない峰はどんどんとしゃべる。
「部屋の惨状知ってるか?しかも万年金欠だし、変な奇声出すし。」
「…知ってる。」
確かにあの部屋の惨状は初めて見たとき度肝を抜かれたけれど、金欠は俺と一緒にいればこれからマシになるだろうし、奇声はけっこうかわいいからいい。

「知ってても付き合うなんてチャレンジャーだな。」
「煩い。」
もういいかげんうっとおしくなってきて峰から黒板に視線を戻す。

「なぁ、千秋。」

「ちゃんと講義受けろ…」
さすがにもう無駄口に付き合う気はないからそう言い捨てた。
けれど急に峰は少し真面目な声で小さく呟いた。

 

「おまえ、女除けにテキトーにのだめの事使ったりしてねーよな?」

峰の言葉に俺は手に持っていたペンをポトリとノートの上に落とした。
そして峰を見る。
そこには見たこともないくらい真剣な顔をした峰がいた。

「俺はのだめの事妹みたいに思ってる。だからおまえがいかにすごいヤツだって認めててものだめをいつものとりまきの女達みたいに扱ったら俺、お前のこと許さねーから。」

じっと目を逸らすことなく俺を見る峰に、俺は眼鏡を外すとはぁと息を吐き出した。
「あほか。」
「なんだと??」
「お前に関係ない。」
「おい!」
「…だけど俺はあいつを大事だと思ってるし、出来る限り一緒にいたいと思うし、守ってやりたいと思ってる。それに…。」
「それに?」
俺の言葉に峰は食らいつくように身を乗り出してきた。

「もうすぐ一緒に住むし。」

 

 

「はぁ!!?」

 

峰の声は広い筈の講義室いっぱいに響き渡った。

 

++++++++++++++++

「お前のせいだぞ。」
「悪い。」
見事に神経質な教授の逆鱗に触れ俺と峰は講義室の外に叩き出された。
優等生でやってきた俺には初めての屈辱。

「いや、しかしさっきのマジかよ?」
講義室から出された時点で思いっきり殴ってやった頭を擦りながら峰はもう一度確認するように俺を見た。

「ああ。来週であいつのマンション解約させてうちに引越しさせる。まぁ、もうほぼうちに住んでるようなもんだから後は荷物を少しづつ移してるとこだ。」
開いた時間を持て余したので仕方なく、峰に奢らせて学内のカフェの席についた。

「いや、本気で惚れちゃったんだ…。」
「なんだよ、さっきまで許さんとか騒いでたくせに。」
「いやー、まさかそこまで千秋がのだめにハマっちゃってるとは思わなかったからさ。」
「うるせーな。ほっとけ。」
運ばれてきたエスプレッソを飲み眉間にしわを寄せる。

「まぁまぁ、そう怒るなよ。お前がのだめにゾッコンなら俺はなんも文句なんかねーし。」
「お前に文句を言う権利はない。」
「あーはいはい。そうだ!これでも見て機嫌直せよ。」

そう言って峰はケータイをしばらくいじると画面を俺に向けた。
画面いっぱいに写る写真。
一瞬の後、俺は飲んでいたエスプレッソを思いっきり吐き出した。

「ぎゃー!千秋っ、きたねー!!」

「お、おまえ、それ…。」
俺は口元のエスプレッソを拭いながら騒ぐ峰の手からケータイを奪った。

そこにはまぶしい笑顔を浮かべた俺の恋人。
しかも水着姿。

赤いチェックの水着を着たのだめは最高にかわいいが、なぜそれを峰が持っている??

「かわいーだろ?今年の夏にみんなで海行った時のヤツ。」
得意満面の顔で言う峰をギロリと睨む。

「おまえ、コレすぐ消せ!」
「えー、なんで?」
「当たり前だ、アホ!」

最悪だ。
自分のかわいい恋人のあんな写真が他の男のケータイに入ってるなんて。
だけど。

「消す前にくれ。」

峰はポカンとした後、盛大に笑って笑いすぎて椅子から転げ落ちた。
俺だってそんなこと言いたくねーよ。
だけど、悔しいことにその写真ののだめはめちゃくちゃかわいくて消してしまうには惜しかったから。

 

++++++++++++++++

家に戻り、のだめが風呂に入っている間にケータイを開く。
中には今日手に入れたのだめの写真。

眩しいくらいの笑みを浮かべ砂浜ではしゃいでいる。

やっぱかわいい。

峰にこんな顔見せてるのは許せないけれど。
俺の前だったらもっと言い笑顔浮かべてくれるだろうか?

「ぎゃぼ!?何見てんデスカ!!?」
いつの間に風呂から上がっていたのか、のだめは俺の後ろからケータイを覗き込んで変な奇声を上げた。
慌てて閉じるが時遅し、のだめの白い手が寝そべっていた俺の手からケータイを取り上げた。

「真一君!?コレどーしたんデスカ??」

パカリとケータイを開いて俺に迫ってくる。

「いや、峰が…。」
「峰君!!?最悪デスヨ!!?なんでこんなの真一君にー!!」
俺には見せたくなかったのか涙まで浮かべている。
「いや、かわいいし、いいだろ?」
「この時すっごい太ってたんデス!!」
泣きそうに眉を寄せながら叫ぶのだめに画面を見る。

太ってる?
そうか??

んー、よく見ればそうかも…??

「いや、あんまわかんねーし。」
「のだめはわかるんデス!」

ほっぺたを膨らませる顔がかわいくてベッドに膝立ちになっているのだめの手を引いた。
「ほえ?」
そのまま倒れてくるのだめを体の上にのせて抱きとめると少しだけ目元を赤くして俺を見下ろした。

「別に重くないし、ちょっと太ってるほうがさわり心地もいいしな。」
「ぎゃぼ!ムッツリ!!」
チュッとキスをすると途端に真っ赤になって俺にギュッと抱きついてきた。
「写真消してクダサイ。」
「ヤダ。」
「むうー。」
「今度俺が撮ってやるからそれまではヤダ。」
「?真一君がのだめの写真撮るんデスカ?」
「そう。まぁ、海には行けないから、部屋で水着着て。」
「ナンデスカ、ソレ??」

怪訝そうな顔をするのだめに笑う。

そしてゆっくりと背中を撫で、赤い唇を塞ぐ。
のだめもすぐにその気になったのか目を閉じると舌を伸ばしてくるからそれを甘く吸い、絡めて深いキスをした。
唇を離すと蕩けるような笑みを浮かべるのだめ。
それは写真よりずっと綺麗だ。

そのまま体を入れ替えてのだめの上になると唇を合わせながらお互いのパジャマを脱がしあって、素肌に溺れていった。

他の誰に見せるより極上の君を。

俺はもっと知りたいよ。

end