のだめは生まれて初めて恋人が出来たんデス。

峰君に誘われて行った合コンで初めて会った真一君は、すーごくかっこよくて不機嫌そうな人でした。
ずーっと顔を顰めているから最初とっても怖い人かと思ったのに、ふとした瞬間キョトンと緩む眼差しにとってもキュンとしちゃいました。

だけど出会ってすぐにまさかあんなことになるなんて思ってなかったデスヨ。

初めてのチューに、初めてのえっち。
最初ちょっぴり怖かったデスケド、真一君がすごく優しかったから全然イヤじゃなかったんデス。

大好き。

愛してマス。

会ってすぐになんだと思われるかもしれないけどのだめはフォーリンラブしちゃったんデス。

 

+++++++++++++++++

「ぎゃぼん!」
自分以外他に誰もいない廊下に声が響く。
だけどそれをかまっているわけにはいかない。

「35円しかないデス…。」

赤地に白の水玉のがま口財布を逆さに振ってみるけれど出てくるのはくしゃくしゃになったレシートぐらい。
その事実に泣きそうになる。

銀行の残高は0。
ちなみに仕送りまでは1週間以上ある。

「ど、どうしましょう??」

あわあわと誰もいない廊下をぐるぐると回ってしまう。
さすがに真一君にはこんなこと言えない。
だけどその真一君とあと10分もしないうちに会う約束をしているのだ。
今日はそのまま真一君のおうちにお泊りだから今日は凌げるだろうけど、バレるのは時間の問題。

「あわあわ、どーしましょー!?」

頭を抱えた瞬間。

「何がどうしましょうなんだ??」

非常に聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。

「ぎゃぼ!!?」
慌てて振り返った場所にいたのは、真一君。

相変わらず今日もすーっごくかっこいいデス。

「はうー。早かったんデスネ。」
「ああ、教授が珍しく早めにきりあげたからな。」
「お疲れ様デス。」
そう言って人気のない廊下で抱きつくとすぐに背中に回される暖かい腕。

「うん。で?」

「ほえ?」

真一君の声に顔を上げる。

「何がどうしましょうなんだ?」

ニコリと真一君が笑う。
それは有無を言わせない。

「えと…、何でもないデスヨ?」
コトンと首を傾げて上目遣いで見上げてみる。
真一君はのだめがこうすると大抵のことは聞いてくれるんデス。
なんでかは知らないデスケド。

「そうか。…おまえ、今日メシ抜き!」
「ぎゃぼん!やデス!!」
ヒドイと真一君のシャツの胸を引っ張ると意地悪そうな笑みがのだめを見下ろした。

「じゃあ、言え。」
「うう、俺様ー!」
きゅうっと抱きつくと背中と髪を撫でられる。

「あのデスネ?」
小さく呟くように言う。
「ん?」
愛想をつかされたらどうしようとかぐるぐる頭の中を不安が回るけれど、もうここまできたら言ってやると真一君の広い胸に顔を埋めて言葉を口にした。
「あの。」
「なに?」
「えーと。コレデス!!」
そう言って手に持ったままだった財布を真一君に差し出した。
「財布?」
「ハイ。」
真一君は財布を受け取るとパカっと開けた。
そこには35円とレシート。

「…なんだ?」
「35円しかないんデス。」
「は?銀行ならまだ開いてるだろ?帰りに寄るか??」

「のだめの全財産が35円なんデス!!あと一週間以上どうやって過ごせばいいデスカ!!?」

なかなかわかってくれない真一君に痺れを切らして叫ぶ。
そして顔を上げるとそこには瞬きを繰り返す真一君。

「真一君?」

 

「…はぁ!!??」

一瞬の沈黙の後、盛大に響く声。
「おまっ、35円って??え、マジでそれだけなのか??」
「ハイ…。」
「何に使ったんだ??」
「さあ?」
なんだったかなと首を傾げると盛大なため息が吐き出される。

「はぁ、おまえ。…とりあえず帰るぞ。話は家でしよう。」

大きな手に腕を?まれ引きずられるようにして真一君のマンションへとつれていかれた。

++++++++++++++

真一君のおうちは学生の一人暮らしのマンションとは思えないほど広くてすごい。
部屋だってたくさんあるし。
リビングでお気に入りのソファーに寝そべってキッチンでご飯を作ってくれる真一君の背中を見つめる。

とりあえずはメシと言って帰ってからすぐに夜ご飯の支度を真一君は始めた。
家事はまったく出来ないのだめはとりあえずいつもの所定の位置で真一君の背中を見つめている。

とても男の人とは思えない慣れた手つきで次々においしそうなご飯を作り上げていく。
実際にとってもおいしいのは知っているけれど。

だけど、この沈黙は重いデス。

は!
ご飯食べるお金もないからとりあえず食わせて、帰れとか!!?

うう。

ヤデス。

まだ何も言われた訳じゃないのに涙が浮かんでくる。
グスリと鼻をすすってしまった。

「のだめ?」
キッチンにいた真一君が振り返る。
泣いてるのを見せたくなくて少し俯いた。
呼び声に応えなかったからか真一君が近づいてくる気配がする。
「のだめ?」
「ふぁい。」
目の前まで真一君は来て、のだめの頬を撫でて上を向かせた。

「おまえ、何泣いてんだ??」

長くて優しい指がほんの少し浮かんだ目じりの涙を拭ってくれた。

「だってー。」
「?」
のだめの声に困った顔をする真一君。
ソファーに座ってのだめを膝の上へと乗せて背中をあやすように撫でてくれる。

「ん?」
「嫌いにならないでクダサイ。」

「はぁ?」

まん丸に目をみ開く真一君。

「急にどうした?」
「だってー、呆れたって顔して。それから何も言ってくれないから…。」

のだめの言葉に真一君ははぁと息を吐き出してのだめの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「悪い。ちょっと考え事してたから。別に呆れたりしてねーよ。前のお前の家に行った時ほどの衝撃は受けてねーし。」
「ホントデスカ??」
「うん。」
「嫌いになってないデスカ?」
「あたりまえ。」
ぎゅうっと抱きつくと小さな笑い声とともに暖かい腕が抱きしめてくれる。

「なぁ?」
「ふえ?」
「前から考えてたんだけど。」
「ナンデスカ??」

「ここに一緒に住まねー?」

少し顔を赤くした真一君。

くるくると真一君が言ったことを考える。

「むきゃ??」

「嫌か?」
ちょっと不安そうな顔になった真一君に慌てて言葉を吐き出す。
イヤなわけない。
こんなにも大好きな人と一緒にいれるんだから。
でも急になんででしょ??
「イヤじゃ、イヤじゃないデス!!でも、なんでデスカ??」

「お前の家の惨状もそうだけど、おまえには一人暮らしは向いてないから一人にしとくのは俺が不安なんだよ。一緒に住んでたらいつも傍にいれるから。」

「?のだめ一人暮らしに向いてないデスカ?」
「向いてないだろ?金の計画性もないし、家事も出来ないし、部屋があれ…。」
ちょっと遠い目をする真一君。

「のだめ、ほんとに何もデキマセンヨ?」
「いいよ。その代わり俺が出来るから。」
チュッとキスされた。

「のだめと一緒にいたいデスカ?」
ニコニコとしてそう聞くと顔を赤くする真一君。
「調子のんなよ。まぁ、でもいたくないなら一緒に住もうなんて言わねーよ。」
「ふふー。好きデース!!」
「知ってる。」

ぶっきらぼうに言う真一君に少し意地悪したくなる。
「そこは俺も好きだよって言ってクダサイ!」
「言わねー。」
びっくりするほど大胆なことを言ったりするのに、とっても恥かしがり屋のさんの真一君にイシシと笑ってしまう。

「言ってくれないなら一緒に住みマセン!」
「はぁ?」
「のだめは本気デス!だって真一君えっちいっぱいするのにのだめのこと好きってあんまり言ってくれないデスモン。」
ぷぅと頬を膨らませて拗ねたフリをすると少しだけ焦ったように真一君はのだめを覗き込んでくる。
「あんまり言ったらありがたみが薄れるだろ?」
「むー。じゃあのだめも言いマセン!」
「駄目だ!お前は言え!!」
剥きになって言う言葉。
それに笑ってしまいそうになる。

「じゃあ、のだめにも言ってクダサイ。」

ニコリと笑うとしかめっ面になった真一君はそれでものだめの頬を撫でた。

「好きだ。」

小さく小さく耳に囁かれた言葉。

ホントズルイ。
ただの言葉なはずなのに、真一君の声だとどうしてこんなに甘くのだめを極上の気分にしてくれるんでしょう?

一気に熱を持った顔で見上げると真一君は少し意地悪そうに笑う。

「かわいいよ。」

「うひ!?」

「好きだ。」

「ふにゃ!?」

「愛してるよ。」

「むきゃー!」

ジタバタと暴れるのだめに真一君は笑う。

「俺をからかおうなんて100年早い。」

そうして優しく甘く唇を重ねる。

「んっ、ふぅ。」

甘く舌を絡め名残惜しく唇を離すと、こつんと額同士を合わせた。

「で、返事は。お姫様?」

「ふにゃー。のだめとずっと一緒にいてクダサイ!!」

更に強く抱きつく。
暖かい腕の中。
これから毎日こんな甘い生活が待ってる。

それはとても幸せ。

ずうっとずぅっと一緒にいてくださいね。
小さく大好きな腕の中で呟いた。

あたりまえだろ。

小さな呟きとキスがふってきた。

end