ヒーターが点いていない室内はびっくりするほど寒い。
お布団にぐるぐる巻きになっていても息を吐くと白くなって部屋の中へと溶け込んでいく。

寒いデス。

先輩が引っ越してから一人で眠る事が当たり前になってそれももう随分と慣れた筈だった。
だけど、こんな寒い日はやっぱり一緒にベッドに入って抱き合って眠りたいななんて思ってしまう。

少しだけカーテンが開いた窓の外には白い雪が見える。

明日は積もるかな?
積もったら庭で大きな雪だるまを作って先輩に写メールで送ろうかな?

ホントは一緒に作りたいンデスケドネ…。

寒いし、もう眠ってしまおう。
そう思うのに目はドンドン冴えてきて、温もりきらない足先が冷えて少し痛むのが気になってしまう。

足が冷たいデスヨ。

そう言ったら先輩はきっとのだめの足を自分ので暖めてくれる。

あの温もりが今欲しいデス。

ようやくぼんやりとした眠気が降りてくる。
それに逆らわずに目を閉じかけた時、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。

慌てて体を起こす。

包まっていた布団が肩から落ちて冷気が一気に襲ってきたけれどドアから入ってきた人を確認すると素足のまま床に足を下ろした。

「先輩っ!?」
足の裏も先も床のあまりの冷たさに悲鳴をあげるけど、そのまま玄関まで走っていくと入り口でコートの雪を払っている人に抱きついた。

「あ、コラ濡れるぞ。…悪い、寝てた?」
「今から寝ようとシテマシタ!」
少しだけ済まなそうな先輩の顔にホンのちょっぴりウソ。
もう寝かけていたけれど、そんな眠気は一気に吹っ飛んでウキウキと先輩の周りを纏わりつく。
それに先輩はちょっとだけ笑ってコートを入り口にかけるとそのままのだめを腕の中に迎え入れてくれた。

シャツも少し水分を吸って冷たいし、冷気にさらされた手も顔も髪もびっくりするほど冷たかった。
でもそこはほわんと暖かい。

髪を撫でてくれる。
そして冷たい唇がキスしてくれる。

しばらく夢中でキスをしていると冷たかったお互いの唇がほんのりと熱を持ってくる。
それが嬉しくて、ドキドキしてそのうち唇だけじゃなくお互いの頬や首筋、鼻の頭や耳に口付けていく。

触れた場所が、触れられた場所がどんどん熱をもって熱くなっていく。

最後にもう一度唇を合わしてチュッと音をさせて離すとこつんとおでこをくっつけてお互いを見つめた。

「今日、どうしたンデスカ?」
「近くで飲んでたから…。」

「のだめに会いに来てくれたンデスヨネ?」

小さな声でぶちぶちと言いながら少し頬を赤くした人にそう聞くと益々赤くなった。

「…悪いか?」
しばらく黙った後、先輩は顔を赤くしたままぶっきらぼうにそう言う。
その拗ねた顔がかわいくて思わずニヤけた顔になってしまう。

さっきまでとっても寒かったのに、今はポカポカ。

「って、おまえ素足じゃねーか!?」
「ふぉ?そーいえば。」
先輩に言われて足元を見る。
見た瞬間に足先がジンジンと痛くなってきた。

「つべたいデス〜!」
「あほっ。」
先輩はコツンとのだめの額を指で弾くと、ふわりとのだめを抱き上げてくれた。

「お姫様〜。」
「ったく、手のかかるお姫様だな。」
呆れた顔をしてたけど先輩はそのままのだめをベッドまで連れて行ってくれた。
そしてベッドの上に優しく、壊れ物を扱うようにそっと下ろした。

「足出せよ。」
「むきゃ?」
先輩もベッドに座るとのだめの素足を掴んだ。
「げっ、冷え過ぎだろ…。」
感覚が無いくらい冷たくなったのだめの足にびっくりしたらしくそのまま必死になって擦ってくれる。
大好きな大きな手に撫でてもらってのだめは大満足で冷たい足とは正反対に心がホカホカしてくる。

「なんかほんとにお姫様〜って感じデスネ。」
「おい…、それは俺は召使ってことか…。」

「違いマスヨー。先輩は王子様に決まってるじゃないデスカー。」

手を伸ばして少しハネた髪を撫でると先輩が顔を上げた。
そして手を掴まれる。

「じゃあ、お姫様?俺の事も暖めてくれる?」

にやりと笑った先輩にのだめの顔が赤くなる。
そしてちょっとだけ唇を尖らせた。

「もちろん。どんとコイデス!」

先輩は小さく噴出して、そのままシャツを脱いだ。

「寒くないデスカ?」
「すぐ熱くなるから大丈夫。」
「ぎゃぼん!」

そのまま王子様に抱きしめられながらさっきまで冷え切っていたベッドに身を倒した。

もう寒くないデス。
今晩はきっとふかふかのほかほかな夜を過ごせるから。

++++++++
「先輩!起きてください!!雪が積もってマスー!!」
「ああ…。」
「雪だるま作りたいデス!!」
「…いやだ。寒いし。」
「そう言わず!のだめ先輩と雪だるま作りたいデス!!」

「…もう一回暖めてくれたら考えてもいいけど?」

「むきゃっ!!」

end