出会ってから数年。
その間離れていたのはほんの少しで、それ以外は本当にずっと一緒に過ごしてきた。

音楽がすごくて、かっこ良くて、真面目で、優しくて、俺様で、不器用で。

いろんなトコロを知りマシタ。

だけど、追いかけて追いかけて漸く恋人になれて。

そして、今。

たくさん、たくさん色んな顔を知りマシタ。

 

「ただいま。」
少し長い演奏旅行から帰ってきた先輩は玄関のドアを開けてのだめの顔を見ると少しだけ嬉しそうに頬を緩めた。
その表情が嬉しくてのだめも満面の笑みになるとそのまま先輩の腕の中に飛び込んだ。
「おかえりなサイ!じゅうでーん!」
勢い良く飛びついてそのまま大好きな匂いを体いっぱいに取り込むように吸い込んだ。
先輩のコートに顔を埋めているから先輩の顔は見えないけれど、ゆっくりと大きな手がのだめの頭に乗せられ優しく撫でてくれる。
「ったく。」
ちっとも困っていない声が頭上から降ってきて増々幸せな気分になる。

十分に玄関で大好きな温もりと匂いを堪能してゆっくりと顔を上げると穏やかな顔でのだめを見下ろしている先輩の瞳と目が合った。
ほんの少し前までは絶対に見れなかったような瞳の色。
出会った頃は拒絶の色が濃くて。
少ししたら諦めの色。
たまに楽しそうな色になって。
そしてごくごく稀に心配そうな色になったりして。

そして今はとーっても甘い色。

先輩が恋人にそんな瞳の色を見せるなんて意外だったけれど、見慣れてきた最近ではずっと見ていたいと見つめてしまう。
今日もその瞳の色をうっとりと見つめているとゆっくりと近づいてくる先輩の顔。
そして閉じられる瞳。

ああ、もったいない。
もっと見ていたいデス。

そしてそんな事を考えているうちに柔らかな感触が唇に触れる。
いつの間にか頭にあった手はのだめの腰を抱き、引き寄せられる。
甘やかな口づけ。
緩やかに軽く何度か口づけられてそして大好きなフレンチキス。

「ん、せんぱい。」
きゅっとコートの袖口を掴み口づけに応えながら呼ぶと自分でもビックリするぐらい甘い声が出た。
すると更に先輩の腕はぎゅうっとのだめを引き寄せて、口づけも激しく深くなっていく。

もう、訳がわからなくなるくらい何度もキスをしてそのまま抱き上げられる。
そして気がつけばベッドの上で天井を見上げるように寝そべっていた。

「あ。」
小さく声を出すとすぐに天井は見えなくなって先輩の少し切羽詰まった顔しか見えなくなる。

「のだめ。」
「先輩…、大好きデス。」
「ん。」

微笑を浮かべられて優しい手がのだめの髪を撫でた。
お風呂にも入っていないし、ましてや先輩はまだコートも脱いでいないのにとかそんな事が一瞬頭に浮かんだけれど、浮かされたような表情をする先輩を見ればそんなことどうでもいい事のように思えた。
そしてきっと自分もそんな顔をしているに違いないとキスを繰り返しながらぼんやりと確信した。

久しぶりの交わりはお互い切羽詰まっていたのかまるで余裕なく激しくて、それでも溢れ出す程の愛しさで何度も求めてしまった。

3度目の絶頂を全身で味わった後は、気怠い体を逞しい体に擦り寄せた。
「うふ。」
「ん?」
「ふふー。先輩、すっごくかっこ良かったデス。」
「…、あほ。」
「ぎゃは!照れてる!」
「うるさい。」
顔を赤くした先輩はのだめの頭を軽く小突いてまだ少し汗ばんでいる胸板にのだめの顔を押し付けた。

緩んだ顔も、余裕のない顔も、照れた顔もほんの少し前まで見れなかった表情だ。
そんな顔を見せてくれるだけで嬉しくて嬉しくて幸せになる。

大好きな汗の匂いを嗅ぎつつにんまりと頬を緩める。
そしてぎゅうっと抱きつくと先輩の大きな手がまたのだめの髪を撫でた。

「先輩ってのだめの髪、よく触りますヨネ?」
「ん、なんか触り心地いいんだよ。最近は臭くもねーし。」
「最近は毎日シャンプー、トリートメントしてますからネー。」
「当たり前だ。まぁ、その調子で続けてくれ。」
「了解デス。」
胸に埋めていた顔を上げて敬礼しつつにんまりと笑うと先輩も笑い、人差し指でのだめの額を突いてくる。
「むきゃ?」
「ぷ、へんな顔。」
「ムキー!」
怒ったフリをして先輩のほっぺたを引っ張るとコラと全然怖く無い声で怒って、先輩はのだめの腕を掴んであっという間に自分の体の下に組しいてしまった。
そして意地悪そうに笑う。

あ、この顔もこんな風な関係になってから見るようになった表情デス。

見上げたのだめを笑い、そして頬や額そして鼻の頭に軽い口づけを落としてくる。

「また?」
「ん?」
「さっきいっぱいしマシタヨ?」
ちょっと呆れたように言うと先輩はまるで拗ねた子供のような顔をする。
そんな顔をするのは今までのだめだった筈なんデスケドネ。

でも。

かわいいから許しちゃうんデス。

ゆっくりと腕を伸ばして、先輩の首に回すと途端に満足そうな顔で笑う。

勉強も出来て、音楽はホントにすごくて、お料理もプロ級で、お掃除だって完璧。
しっかりしてて、とーっても大人の人だとずーっと思ってた。

まぁ付き合う前からちょっぴり子供っぽいところもあるって知ってマシタケド。

だけど、こんなに甘えんぼだなんてちっとも知りませんデシタヨ。
きっと他の人たちが知ったらビックリシマスネ。

峰くんはどんな顔するかな?
黒木君やフランクはきっと目を丸くするに違いない。
ターニャは大笑いしそうデス。
真澄ちゃんは白目むきマスネ。

そんな事をツラツラと考えていたら先輩の顔はほんのちょっぴり不機嫌そうになった。
それに首を傾げると先輩は目を細めてフイと顔を背けた。

「先輩?」

「せんぱい??」

何度か呼んでみるけれど無反応。
いったいいつ機嫌を損ねたのか全くわかりマセン。

さっきまであまえんぼでかわいかったのに…。
でもたぶんこの不機嫌もその延長なんだろうけれど。

「真一くん?」

たっぷりと甘い声で呼ぶと漸くこちらを見てくれた。
その頬は少し赤い。
「俺といる時に他の事考えんな。」
「むきゃ?」
真っ赤な顔になってそして恥ずかしそうに目を泳がせる。
…嫉妬デスネ。
ぷぷぷ。

かわいーデス。

「のだめは真一君のコト考えてたんデスヨ?」
「え?」
「ラブデス。」
ニコッと笑って見せるとまた更に赤くなる顔。

そしてそのまま唇を塞がれた。

リンゴのように赤くなった顔。
拗ねた顔。

知らない顔をいっぱい知っていく事がとっても嬉しい。
これからもたくさんたくさん知っていきたい。

どれも大好きで、愛しいデス。

 

もちろん、のだめのおっぱいを触っている時のいやらしい顔も好きデスヨ。

end