15000hitキリ番リクエスト小説です。
環様で「メイドシリーズで、拍手文であった峰視点の頃(高校時代)で、千秋視点」デス。
環様本当に遅くなって申し訳ありません…
しかも微妙です…
千秋がちょっと暗い…。
環様返品可なのでいつでも言ってくださいっ!!

 

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「ずっと傍に」

大事な女がいる。
可愛くて大切で愛しい。

初めて会ったのはアイツが生まれた日。
残念ながらまだ俺も1歳になってないような頃だから覚えてはいないけど。
ただ母親が言うには人見知りだった俺が何故か初めて見る自分より小さな赤ん坊に興味深々で
泣きもせずにじーっと見てたらしい。
2人並べて寝かせたらそのまますぐに寝むっちゃったわと楽しそうに笑う母親を思い出す。
その頃から俺にとってのだめは特別でかけがえのない女の子。

ふわりと舞う寝癖のついた色素の薄い髪。
白い頬をピンク色に染めてはしゃぐ姿に笑みを零す。

「こら、高校生になったらおしとやかにするんじゃなかったのか?」
真新しい制服に身を包んだのだめは嬉しそうに繋いだ俺の手を引っ張りながら楽しそうに跳ね回る。
「だってー、やっと真一君と同じガッコに通えるんデスヨー。ウレシーデス。」
俺は小、中、高と一貫性の私立の学院に通っていたから中学まで公立の学校に通っていたのだめとは
今まで一緒の学校に通ったことはない。
のだめはどうしても高校は一緒がいいとダダを捏ねてはっきり言ってどう考えても学力レベルが
合わない俺の通う高校を受験した。
俺だってのだめと一緒に通いたいという気持ちがあったから1年間スパルタでのだめの勉強を
みてやった。
時にはもうムリと言って大泣きしたり、喧嘩したりもしたけど無事合格したと知らされたときは
もう2人で抱き合って喜んだほど。
まぁ、それを家の人間全員が見てて含み笑いをされたのはかなり恥ずかしかったけど。

でも目の前ではしゃぐのだめを見ているとまぁいいかと思う。

のだめが幸せなら俺はある程度の事には目を瞑ることにしている。

学校に着き、手を離して別れる。
学年が違うんだからしょうがない。
だけどのだめが少しだけ寂しそうな顔をするから、柔らかい髪を何度か撫でてやる。
途端に零れる笑みに俺も頬を緩める。

「いってきます。」
「ちゃんと先生の言う事きけよ。」
「はーい。」

軽く手を振りのだめは背を向けるとスキップしながら自分の教室へと向かう。
それを見送って自分も歩き始めるとすぐに肩を叩かれた。
「よお、親友!相変わらず朝からいちゃついてんなー。」
能天気な声とともに現れた男に俺は軽く睨む。
「朝からうるさいぞ。」
「さっきまでとろけそうな顔でのだめの頭撫でてたくせに、無愛想だなー。」
峰は呆れたように笑う。
うるさい、俺だってのだめがいる時といない時じゃあ態度が違うってことくらいわかってる。
だけどどうしようもない。
あいつがいれば俺は自然と穏やかな気持ちになって笑えるんだから。

「真一。」
峰と話しながら教室に入るとすぐに名前を呼ばれる。
少し不機嫌な女。
「彩子。」
ぽつりと呟くと彩子は綺麗に整えられた眉をしかめたまま俺の傍までやってきた。
「おはよう。」
「ああ。」
とても挨拶するような表情ではないが、とりあえず先にちゃんとするのがこいつらしい。
歪んだ事は大キライな女だから。

一応俺と彩子は高校に入ってすぐの頃から付き合っている。
彩子から言われて始まった関係だけど、俺だって彩子のことはそれなりに好きだと思う。
それは愛とか恋とかいうものではないけれど。
それを彩子は知っている。
俺の気持ちも、俺が誰を見ているかも。

なのに別れを言われないことを良いことに俺は彩子に甘えていた。
恋人がいる。
その事実を守るためだけに。

「今、ちょっと話せる?」
彩子は少しイライラしながら俺を見上げる。
俺は腕時計に視線を落とし、予鈴までまだ時間があることを確認するとああと頷いた。

彩子は俺の腕を引き、教室を出て裏庭まで引っ張ってくると重いため息を吐き、長い髪をかきあげた。
「いいかげんにしたら?」
「え?」
彩子は少しきつめに俺を睨む。
「あなたが誰を好きかなんて、あの子以外この学校の全員が知ってるわよ。」
「…まさか?」
「仲良く手を繋いで登校して靴箱の前で抱きしめるみたいに髪を撫でたりして。
どれだけの人が見てると思ってるのよ?」
「……。」
「好きだって言えばいいじゃないっ!?」
彩子は吐き捨てるように俺に言葉をぶつけた。

好きだ。
好きだって言葉じゃ足りないぐらい愛してる。
俺にとって唯一の存在。

だけど…

「言わない。」

言ったら今の関係が壊れることを知っているから。

のだめは俺に恋人を求めてるわけじゃない。
ハッキリ言うと求めてない。

あいつは兄のように親のように俺を慕ってるだけなんだ。

でも俺はいつも無意識にあいつに女の部分を求めてしまうから、自分に彼女がいるという事実で
防波堤を作って逃げている。

今の関係を壊さないために。

「ほんと、バカよね。」
「ああ、そうだな。」
頷くと彩子は心底呆れた顔をした。

「しょうがないからもう少しだけ付き合ってあげる。
だけど、そうやって我慢してると何も手に入らないわよ。」

そんなこと知ってるよ。

このままでいればいつかのだめは俺じゃない他の男の手を取って親代わりの俺のところから
離れていってしまうだろう。
それに俺はきっと耐えられない。

俺以外の男の傍で幸せそうに笑う姿。

考えるだけで気が狂いそうになる。

だけど俺が女としてアイツを求めればきっと今の関係すらも壊れてしまうから、
俺は自分でもバカだと思いながら遠い未来のことより今を選んでしまっている。

「ほんとバカよね。」

小さく呟いた彩子の言葉がやけに重かった。

 

登校も一緒なら下校も一緒。
のだめは結構彩子に懐いているから3人で帰ることもある。
彩子も彩子で邪険に扱っているように見えて、のだめを可愛がっているらしくたまに服なんかを一緒に買いに
行ったりもしていた。
好きな女と付き合ってる女が仲良くしているというのはなんだか妙な気分だけど、
本人達が気にしていないようなので俺としては特に異存はない。
今日はピアノの教室まで時間がある彩子とのだめと3人で駅前ののだめお気に入りのカフェに来ていた。
彩子はミルクティ。
俺はコーヒー。
のだめは気分が悪くなりそうなほど生クリームがデコレーションされたパフェを食べていた。
高校生にもなって食べ方が恐ろしく下手なのだめはクリームを頬や鼻の頭につけて無心で食べている。
それを向かいの席から手を伸ばし拭いてやると、横から彩子の呆れた視線を受けた。
いつも通り、特に変わったことのない午後。

穏やかに過ぎていくはずだったそれは1人の人間によって破られた。

「野田さん?」
急に聞こえたのだめを呼ぶ声に顔を上げるとうちの制服を来た学生が数人いた。
そのうちの一人。
1年にしては少し背が高い以外目立ったところもない男子生徒がのだめを見ていた。

のだめを呼んだのはこいつ。

値踏みするようにジロリと視線を向けたが男子生徒は気づかないのか嬉しそうにぽやんと不思議そうな顔を
しているのだめに話し掛け始めた。
そのほかの生徒達は含み笑いをして成り行きを見守っている。

こいつのだめに気があるな。

かといってそれに協力してやる気はまったくない。
むしろ腹立たしい。

でものだめは俺のそんな気持ちなんて知らないからいつも通り愛想良く男に笑顔を向けた。

ギリッと嫌な痛みが胸を襲う。

そんな顔俺以外に見せないで。

男子生徒は少し頬を染めのだめをうっとりと見ていた。

殺してやりたいくらい腹が立つ。

俺の視線に気づいたのか男子生徒は慌てて俺と彩子に会釈するとのだめにまた明日と言って他の
生徒達とともに離れて行った。

「ほんとバカみたい。」
横で呆れたように呟く彩子。
「誰がバカなんですか??」
口にクリームをつけたまま首を傾げるのだめ。

バカは俺だよ。
そんなこと百も承知。

誰にも渡せないのに、自分でも手に入れられない臆病者。

「あいつ誰?」

だけど男の存在が気になって気になって不機嫌な声でのだめに問いかけた。

「同じクラスの人デスヨ。席が隣ナンデス。」
「へー。」
「いっつものだめが忘れ物したら貸してくれるとーってもいい人デスヨ。」
そう言ってニコリと笑う。
それに横で彩子が噴出した声が聞こえた。

さぞかし彩子から見れば滑稽な姿だろう。
勝手に怒って、しかもそれに相手は気づかずに笑みまで浮かべている。

のだめのせいじゃないけど俺は不機嫌になって無言でコーヒーを飲み干した。
不思議そうに首を傾げるのだめと笑いを堪えている彩子。
惨めな気分になる。

その後彩子とは別れ、2人で家へと歩き出す。

「真一君?怒ってるデスカ??」
「怒ってねーよ。」
「ホントに??」
大きな瞳で俺の顔を覗き込んでくる。
その姿は本当にかわいい。
顔が赤くなりそうなのを必死で堪えてのだめの額を指で突付いた。
「ほんと。それよりお前、忘れ物ばっかしてんじゃないだろうな??」
「そ、そんなことないデスっ!」
あせった様に目を背けるのだめに相当毎日忘れ物をしていることを知る。
「へー。今日の夜から持ち物チェックするからな。隣のヤツにも迷惑だろ。」
これ以上忘れてあの男に近づかれちゃ堪らない。
今日からチェックして絶対に近づく口実を減らしてやる。
俺の情けない心の内なんて知らないのだめは純粋にその言葉に喜んで目を輝かす。
「真一君がしてくれるんデスカ??」
「他に誰がすんだよ。」
「ヤター!」
ピョンと跳ねて喜ぶ姿に自然と口元は緩む。

この笑顔が一生俺だけのモノであって欲しい。

だけどそんなのはムリだっていくらバカな俺だって知ってる。

 

それを思い知るのは意外と早かった。
次の日急にのだめに告げられた言葉に俺は不覚にも固まってしまった。
「のだめ、今日告白されちゃったんデス!真一君、どうしたらいいデスカっ??」

「え?」
「昨日カフェで会ったクラスメイトの男の子に今日言われたんデス!!のだめそんなの言われたコト
ないからどうしたらいいかわかりませんっ!」
少し涙目で見上げてくるのだめに俺の頭は混乱する。

のだめに告白。

昨日のあの男子生徒だ。

「…なんて返事したんだ?」
情けないことに俺はそれしか言えなかった。

「…まだ何も言ってないんデス。返事は明日でイイって。真一君どうしようっ!?」

オロオロとするのだめ。

何で迷うんだよ。
断ってくれよ。

お前の特別は俺だけでいたいんだ。

だけどそんなのは俺だけの勝手な感情で、ただの親や兄にのだめのことを縛ることなんて出来ない。

「…よく考えてみろ。そいつのことが好きかどうか…。今好きじゃなくても一緒にいるうちに
好きになるかもしれないし…。そいつに傍にいて欲しいかどうか…」

今の俺には止める権利はなくて、ただ曖昧なアドバイスしかできない。
でも言いながらのだめの顔を見ることは出来なかった。

次の日、のだめは朝返事をするからと先に学校に行った。
どう返事を返すのか俺は怖くて聞けなかった。

もしのだめがあの男と付き合うなら、これからも学校へ行くのは一人になるかもしれないなんて
ぼんやり考えてしまう。

学校に着いてからも一日中そわそわと落ち着かなくてずっと頭痛が止まらなかった。

帰る間際にメールの着信。
送ってきたのはのだめ。

『帰りは一緒に帰れマス!』

ホッとした。

返事はわからないけれど、のだめがすぐに傍からいなくなってしまわないことに心の底から安堵する。

彩子と2人でいつものだめと待ち合わせている門のところまで行くとそこにはのだめともう一人の姿。
それに俺は足を止めた。
のだめの前に立っているのは昨日の男子生徒。

一瞬で目の前が真っ暗になる。

「真一、あれって…」
彩子も気づいたのか足を止めて俺を見上げた。

のだめはまだ俺達には気づいていない。

男子生徒はのだめにしきりに話しかけているがのだめはそれに曖昧に頷いている。

まさか、まさか、まさか…

俺じゃない、そいつを特別にするのか?

「ちょっと真一。大丈夫?」

彩子の声に反応するよりも前にのだめがこちらを見た。
そして俺の好きな満面の笑みになってこっちへ駆けてくる。

そしてそのまま俺に抱きつく。

「真一君、遅いデスっ!」
「あ、…悪い。」
事情が読めなくて歯切れ悪く言葉を発しながらも自然とのだめの背中に腕を回した。

ぎゅうっと抱きついてくるのだめ。

小刻みに震えているのは気のせい?

「ちょっとどうかしたの?」
のだめの様子がおかしいことに彩子も気づいたのか心配そうな顔になる。
俺の腕の中でフルフルと首を振るのだめ。

自然と顔を上げてさっきまでのだめがいた場所を見ると、男子生徒が不満そうな顔で俺達を睨んでいた。

「アイツか?」
自分で思っていたよりも低い声が出た。
でも止められない。
腕の中ののだめが少しだけ体を跳ねさせたから。
「アイツになんか言われたのか?」
「えと…」
歯切れの悪いのだめ。
でも俺の制服を掴む手に少し力が込められた。

それだけで十分。

こいつを悲しませるヤツは許さない。

のだめの体を離して俺は足早に男子生徒の前まで進んだ。
「真一くんっ」
のだめが俺を呼ぶ声が聞こえたけど止まらず歩く。
そして男子生徒の前まで来ると俺より少し低いところにある顔を見下ろした。
「あいつに何言った?」
出来るだけ怒鳴りつけないように声を殺す。
別に目の前の男のためじゃない、のだめを怯えさせたくはないから。
だけどそんな俺の感情を逆なでするように男子生徒は強く俺を睨みつけた。

「別に、先輩には関係ないっすよ。」

「関係なくねーよ。あいつは…」
「ただの幼馴染しょ?こういうことに口出す権利とかないですよ。」

目の前の男の言葉に頭の中がぐらりと揺れた。

気持ち悪い。

自分でわかっていたことなのに、他人に言われると我慢できないほど不快な言葉。

ぐっと俺が黙ったことに男は攻撃できるとふんだのかまたすぐに口を開いた。

「先輩には彼女いるじゃないですか?それなのに野田さんにも気をもたせるような態度とって
最低じゃないですか。」

こいつが言ってることは正しい。
俺が間違ってる。
そんなことはわかっているけれど…

「俺は彼女が好きなんです。だから口出ししないで下さい。あなたには関係ないことなんですから。」

そう言って男は俺の横をすり抜けると後ろにいたのだめの前に立った。

「俺と付き合ってよ。あんな人といるより絶対に楽しいからさ。」
のだめの手を取る。
俺はそれをぼんやりと見ていた。

こいつの言うとおり俺には止める権利なんかない。

だけど、
俺はのだめの事が好きなんだよ。

情けなくて泣きたくなる。

こんな時でさえ、怖くて動けない自分が。

彩子が俺の横に来て何か言ったけどそれも聞こえなくて、ただのだめだけを見ていた。

のだめはふわりと笑う。
そしてたった今繋いだ男の手を振り解いた。

「のだめは付き合えません!朝にも言ったけど。」

きっぱりと言う。

いつもフラフラしているくせにこんな時に堂々としててヘンなヤツだと思うけど、
その顔は綺麗だった。

「俺は諦められないんだけど。」
だけど男はそれでも食い下がってまたのだめの手を掴んだ。
「…でもムリなんデス。」
「なんで?そんなのわかんないだろ。付き合ってみたら合うかもしれないし。」
「のだめには真一君がいるから、他の人は好きになりません!」
「あの人は他の女と付き合ってるだろ!」
「のだめは真一君と一緒がいいんデス!真一君がいてくれればそれでいいンデス!!」
「はぁ、なんだよそれ?わけわかんねー。そんなんで諦められない!」
「真一君以外はヤなんデス!ムリデス!!だから手を離してクダサイ!!」

のだめがブンブンと掴まれた手を振り払おうと腕を振る。
だけど完全に頭に血が上ってしまっている男はのだめの華奢な白い手首を強く握った。
「痛いデスっ!」

のだめのその声を聴いた瞬間、俺の頭にも一瞬で血が上った。

おまえ、のだめが好きなんだろ?
好きな女に何手ぇ出してんだ!!?

それにのだめは…

俺の大切な幼馴染で、

最愛の女なんだよっ!

俺は体が動くままに気が付いたら拳を振り上げていた。
渾身の力を込めて殴ると、ひょろっとした体は簡単に吹っ飛んだ。

のだめを傷つけるヤツは許さない。

立ち上がりかけた体にもう一発ぶち込む。

いくら殴っても殴り足りない。

もう一発殴ってやると腕を振り上げた瞬間、腰にぶつかる様に柔らかなものが抱きついてきた。

「真一君ダメっ!」
ぎゅうっと抱きしめられる。
見下ろすと腰に巻きついた白い手が見えた。

小さくて白くて暖かな大事な大事な手。

拳を下ろして振り返ると涙目ののだめがいた。

「真一君ダメデス。」
ギュウッとしがみ付いてくる柔らかな体。

なぁ、俺も少しは自惚れていいか?
お前も俺のことを想ってくれてるって。
俺と同じようにずっとずっと一緒にいたいと思ってくれてるって。

愛しい体を抱きしめる。
もう離したくない。

しがみ付いたままののだめを抱き上げてちらりと倒れたままの男を見下ろした。
今は自分の体を支えるために地面に置かれた手を睨む。
あの手がのだめに触れたと思うだけで吐き気がするぐらい気分が悪くなる。

のだめは俺だけのもの。
誰にも触れさせたくなんかない。

「俺のモンに二度と触るな!」

男を睨みつけてのだめを抱き上げたままその場を離れた。

「真一君?」

「真一君!」

「…なに?」

「のだめ歩けマスヨ?」

ズンズンと学校から無心で歩いていたらいつの間にか随分離れたところまで来ていた。
のだめを下ろして向き合うとのだめは少し困ったように首をかしげた後、
とりあえずいつものようにふにゃりと笑った。

「ごめん。」
「?なんで謝るんデスカ??真一君はのだめの為に怒ってくれたんデスカラ謝ってもらう
ことないデス。殴っちゃったのはちょっとダメだったと思うケド。」

でも真一君があんなに怒ったの初めて見ましたと無邪気に笑う。

それはおまえが大事だから。

「のだめ。」
「ハイ?」
「おまえ、俺のこと好きなのか…」

ドクンと心臓が鳴る。

怖くて聞けなかった言葉を初めて口にした。
のだめはにこりと笑う。

 

もし、のだめが俺を好きだって言ってくれるなら、俺も勇気を出してみようか?

 

「大好きデス。」

「のだめ…、俺…」
甘い声音に誘われて自分の想いも言おうとした。

だけどそれに気づかないのだめが言葉を続ける。

「だって、真一君はずーっとのだめの傍でのだめと一緒にいてくれたでしょ?
のだめにとって真一君はとっても安心できる暖かい場所なんデスヨ。」

伸ばそうとした手を下ろす。

ああ、そっかやっぱり。

 

おまえの好きと俺の好きは違いすぎる。

暖かい場所。
そこは恋人の場所じゃない。

のだめは俺にやっぱりそんなものは求めてないんだ。

言う勇気もなく努力もしなかったくせに落ち込む自分が滑稽で情けなかった。

「真一君?」

「ああ。」

「イヤデスカ?のだめとはもう一緒に居てくれないデスカ??
彩子さんみたいじゃないとダメデスカ??」

少し潤んだ目で見上げてくるのだめ。
それに俺は精一杯の作り笑いを浮かべた。

「バカ。おまえみたいな手がかかるヤツの面倒を見れるのは俺しかいねーだろ。
ヘンな心配せずにおまえはおまえのままでいればいーよ。」

いつか離れることがあるだろう。
だけど俺から離れることなんて絶対にないから。

だからそれまではずっと俺は気持ちを押し殺しておまえが望む存在で傍にいるよ。

俺は一度下ろした手を持ち上げた。

そしてのだめに手を伸ばして抱きしめる。

 

ずっと傍にいて。

 

心の中でそう願った。

 

おまえが生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた。
願うならば一生このままでいたい。

俺以上におまえを好きになるヤツなんてきっといない。

それだけは断言できる。

 

でも俺はおまえの幸せを一番に願う。

おまえが望むように俺はおまえの傍にいるよ。

だけど決して多くを望んだりしないから、ただ傍にいて欲しい。
そのために俺はきっとなんでもする。

高校2年の秋、俺は柔らかな体を抱きしめながらそう思った。

 

end