宿に帰るととりあえずメシの前に風呂に入ることになった。
のだめと桜は女風呂だから途中で別れて3人で風呂に向かった。
真澄ちゃんは心は乙女だから俺達とは入れないらしく部屋風呂で済ますらしい。
まぁ千秋と入ったりしたら鼻血出して倒れかねないので賢明な判断だと思う。

脱衣所で並んで服を脱いでいると菊池があれ?と言い眼鏡をかけなおして千秋を見た。
そしてすぐにニヤリと笑う。
「意外とのだめちゃんって情熱的なんだね?」
「は?」
「のだめが情熱的??」
菊池の言葉に千秋はポカンとした顔になり、俺は首を傾げた。
のだめのぽやんとした顔を思い浮かべる。

情熱的。

まったくもってそぐわない言葉だ。

訳がわからない俺達に菊池はマスマス笑い、とんとんと自分の鎖骨辺りを叩いた。
「千秋君、ここ。」
「え?」
俺と千秋は同時に千秋の鎖骨辺りに視線を動かす。
そこには…

「キスマーク。もう結構薄くなっちゃってるけど結構付いてるね。」
さわやかに爆弾発言をする菊池の言うとおりそこにはうっすらと鬱血した跡がいくつも付いていた。
気をつけて見なければわからないくらいの跡だがじっと見ればすぐに気づく。
恐る恐る千秋の顔を見るとその顔は真っ赤になっているかと思いきや結構普通。
「菊池君のは更に濃く付いてるだろ。」
千秋はそう言って菊池のわき腹を指した。
そこには気づかなかった赤い跡。
俺って結構鈍感なのか??
なんで2人はそんなにすぐに気づくんだよ??
しかも2人は別に恥ずかしがることもなく平然としている。

しかも…

「昨日は彼女が離してくれなくてさ。でも久々で燃えたなぁ。明け方近くまでしてたからスッキリ。」
とか。
「俺はこっちに来てからは実家だからしてないんだよ。そろそろキツイ。」
とか。

おまえら赤裸々すぎだろ!!

って言うか千秋!!
おまえそんなキャラじゃなかっただろー!!

しかも最後には2人して
「峰は清良こっちにずっと戻ってないんだろ?どうしてんの??」
とか。
「大変だな…」
とか。
2人して同情の目を向けてきやがって。

ああもう泣きたくなってきた。

その後は彼女はどうだとかそんな話になって俺ももうヤケで乗っかった。
まぁ、男同士でこういう話をするのはキライじゃないし、このメンツですることなんてまずないだろうから
いいやと思ったけど…。

のだめと千秋がセックスしてるのを想像するとなんだかとんでもないことのような気がして段々エスカレートする内容に俺は
更にどっと疲れてしまった。

何故か疲れを取るはずの温泉で疲れた俺が先に上がって外に出ると、出たすぐ前の椅子にのだめと桜が座って待っていた。
その姿に不覚にも動揺してしまう。
宿で貸し出された淡いピンクの浴衣を着たのだめ。
さっきの風呂で聞いた内容と相まってグルグルとベッドの上で抱き合う千秋とのだめの姿が頭に回ってしまう。
「あ、峰くん!」
「一人ですか??」
のだめと桜が同時に俺に気づき、椅子から立ち上がる。
のだめはお目当ての人物が居なくて少し不満そうだ。
俺は内心を悟られないようにとりあえず大げさに笑ってみた。
「ああ、2人はなんか話が盛り上がったみたいでまだ中にいるぜ。まだすぐには出てこないだろうからなんか飲みにいこう?
俺のど渇いちゃってさー。」
「のだめも喉渇きました!」
「だろ?」
「あーでもお財布は真一君が…」
見事話題を反らすことに成功したと思ったのにのだめの一言に俺は固まってしまった。

真一君??

って

「千秋のこと真一君って呼んでんの??」

確かに彼は千秋真一だけれども…。
真一君なんてかわいい響きのイメージはまったくない。
かと言ってのだめが呼び捨てるキャラでもないし。

そりゃあ必然的にそういう呼び方になったんだろうけど。

先輩って呼ぶ2人しか知らないから強烈な違和感。

「ハイ。真一君ものだめのことたまに恵って呼んでくれますよ。」
ニコリと幸せそうに笑うのだめに俺はぐるんぐるんと目が回る。

そりゃ更に違和感だよ。

あの鬼が今日見た甘い顔以上の甘ったるい表情でのだめのことを名前で呼ぶ姿。
それはあまりにも想像出来なさ過ぎてホラーの域。

俺は知るべきじゃなかったことを知ったのかも…

むきゃーはじゅかしぃーなんて騒ぐのだめが少し憎らしい。
なんて爆弾俺にぶち込んでくれたんだよ。
ああ、昼間からかったツケがこんなところでまわってこようとは…

とりあえず次は宴会だ。
宴会でテンション上げよう!!

俺は必死に自分に言い聞かせてその場をどうにかこうにか乗り切った。

宴会は大好きだ!!
騒ぐのサイコー!!

なのでさっきまでの疲れを吹っ飛ばして大いに飲んで食ってはしゃいだ。
みんな千秋やのだめに会えて嬉しい奴らばっかりだから代わる代わる2人のところに来ては盛り上がっている。
それは千秋ものだめも嬉しいようで上機嫌に対応していた。

宴会が終わってもまだ騒ぎ足りなくて男の大部屋に集まって宴会の続きが延々と続く。
その間も2人はセットのように一緒だったから散々からかわれていたけどのだめは異様にテンション高いし
千秋も酒が入って上機嫌だったからなんだか更にくっついていつの間にかのだめは千秋の膝の上に乗っかってた。
みんな酔っ払いだから大して気にも留めてないらしく俺もまぁいいかなんて思う。
あの不機嫌さ全開だった俺様が素直にのだめに甘えて擦り寄ってる姿はまぁなんていうか微笑ましいというか、
よかったなっていうか…。
昔は誰にも甘えられなくて辛そうだった親友が見つけた素直になれる場所。
それがのだめでよかったなと思う。
俺が2人を好きなのもそうだけど、のだめは結構どこででも生きていけるだろうけど、千秋にはのだめじゃないとだめなんだと思っていたから。
あの俺様を甘えさせられるのなんてそうそう居るはずないだろ?
だからまぁ良かったなと思う。

しばらくどんちゃん騒ぎが続いていたけどそのうちみんなその辺で寝始めてだんだんと静かになる。
俺も結構飲んでいつの間にか眠ってしまっていた。

ふとトイレに行きたくなって目を覚ます。
むっくりと起き上がって時計を見ると午前2時。
1時間ほど寝ていたらしい。
周りには屍と化した人間があちこちで寝そべっていて酒瓶が散乱している。

あー飲み過ぎた…

少し痛む頭を抱えながら立ち上がり部屋を出た。
トイレに向かって歩くと隣の女用に取った別部屋のドアが開けっ放しだった。

無用心だなと思い取っ手を掴むと中から電気が漏れている。
ったく子供じゃないんだから電気ぐらい消せよなんて思いながら部屋に入った。

…俺はこの時の自分の行動を一生後悔することになる。

電気を消そうと部屋の奥に進む。
そして中まで入った俺を迎えたのはベッドに寝そべるのだめと千秋。

「うおっ!」

「げ!」
「むきゃっ。」

3人が3人とも軽く声を漏らしてしまう。

おい。

おいおい。

俺はその場で完全にフリーズしてしまった。

千秋は浴衣を着てるけど…。

なぜかのだめは浴衣の帯が解かれて際どいところまで見えている。

俺の視線に気づいた千秋は慌ててシーツでのだめの体を隠した。
その動きは神業級に早かった。

「わ、わりー。」
「峰くんは悪くないデスヨ!我慢できない真一くんが悪いんデス!!のだめヤダって言ったのにー!!」
「っ、おまえだって乗り気だっただろーが。」
「そんなことナイデスー!!」
「うっせーな。俺はもう限界なんだよっ!!」
「はぎゃっ、行く前に散々したじゃないデスカ!!?日本に行ったら出来ないからって一晩中しつこくねっとり!!」
ベッドの上で絡み合いながら爆弾発言で言い争うバカップルに俺は心底脱力してヘナヘナとその場に座り込んだ。

ああ、ほんともうおまえら凄いよ。
愛し合っちゃったんだな。
恋は偉大だ。

あの鬼で仏頂面で俺様をこんなに変えるんだから。

俺はとりあえず立ち上がって今だベッドの上で言い争いを続ける2人を見た。

「仲良くしても良いから、鍵くらいはかけろよ。」

そう言って2人を残して外に出た。
そして当初の目的どおりトイレへと向かう。

戻ってきた時に確認したらちゃんと鍵は閉まってた。

それに苦笑。

あの後2人が何したかなんて知らないけど、お互いほんのちょっとでも離れたくないんだろう?

朝会ったのだめに昨日あれからどうしたのかって聞いたらスペシャル甘々デシタなんて返された。
千秋は少しバツの悪そうな顔をしていたけれど相変わらずのだめと手を繋いでた。

別れ際そっと千秋に耳打ちする。

のだめを手放すなよ。

そしたら仏頂面で当たり前だって。

ああ、ほんと恋って偉大だ。

あの分なら大丈夫。
2人はきっと2人でずっと歩いていくだろう。
2人の幸せを願って俺はバカップルにがんばれよと言う。

それに2人は手を繋いだまま頷いた。

ああ、俺も清良に会いたいぜ。
帰ったら電話しよう。

そしてすっかり変わってしまった親友の話をしようか?

end