のだめにはフィアンセがいマス!!
とっても優しくてかっこいい男の子。
名前も覚えてないけど、引越しで離れ離れになるのがイヤで泣いていたのだめに赤い石の入った
おもちゃの指輪と優しい約束をくれた男の子。

「大きくなったら会いに行くから、そしたら僕のお嫁さんになって?」

はぅ〜
ドキドキします。
そしてとーっても幸せ。

いまだに待ってるのかって?
待ってますよ。
あたりまえデス!!

みんな、そんな子供の頃の事忘れてるわよって笑うけど、のだめは覚えてマスヨ。

だからきっとあの子も覚えてくれています!!

 

のだめは今年入社したばかりのピッカピカの社会人一年生デス。
所属しているのは庶務4課。
会社内ではお荷物社員の溜まり場なんて言われてるらしいですが、
課のみんなはとってもとっても面白くて優しいイイ人ばかりです。

なのでのだめはぜんぜん大満足。

あ、そうそう最近新しいお友達が出来ました。
違う課の人デス。
海外事業部1課の清良ちゃんと真澄ちゃん。
2人が所属している海外事業部1課は庶務4課と違ってエリート揃いのスゴイとこらしいです。
そんなスゴイところの2人となんでのだめが仲良くなったかというと、
庶務4課の先輩の峰君と真澄ちゃんが仲良しで、よくご飯なんかを一緒に食べに行ってたんですけど
真澄ちゃんと仲良しの清良ちゃんもこの間初めて参加して意気投合。
すっかり仲良しデス。
今日は会社近くにあるっていうお洒落でおいしいカフェに連れてってくれるというので2人と
会社の前で待ち合わせ。

ウキウキ、ルンルンでお昼のベルとともに部屋を出ました。

だけど待ち合わせの場所には見慣れない男の人が立ってました。

すごーい男前さん。
身長も高くて黒のスーツが似合ってます。
でもちょっと髪がハネてマスネ。
ぷぷぷ。

少し神経質そうなその男の人はしきりに腕時計を気にしています。
ちょっと怖そうでしたけど、のだめも待ち合わせしてます。
遠慮がちに男の人の横に並んでみました。

すると横から視線。
見られてマスネ…。
でも知らない人なんで気づかないフリ。
ジーっと視線は注がれ続けます。

い、いたたまれまセン!!
早く真澄ちゃん、清良ちゃん来てください!!

沈黙と視線が気になってチラリと横を見ると少しびっくりしたように男の人はこっちを見てました。
正面から見るとますますとっても綺麗な顔立ち。
はぅー、男前さんデス。

ドキドキ。
なかなかこんな男前さんに見つめられる事はありません。

改めてあたりを見回すと男前さんのことをチラチラ見る女の人がいっぱい。
なんだかちょっと落ち着きませんネ。

でも本人はそんな事慣れっこなのか気づいてないのかのだめの事をじーっと見てマス。
これも落ち着きません。

なんでしょう??
変なモノでも付いてるんですかね??

「あのー、なにか付いてますカ??」
思い切ってのだめが問いかけると目を見開く。
まるで喋るのが不思議みたいな顔デス。

「あ…、え、いや。」
男前さんはしどろもどろになってしきりにハネた髪を掻き毟っています。

へーんなの。

「ちーあーきーさーまー!!」

小さく首を傾げた瞬間に響く聞きなれた声。
振り返ると真澄ちゃんがやたらキラキラした顔で走りよってくる。
そしてのだめの前まできたと思ったら、次の瞬間男前さんに力の限り飛びついていった。

「ひぃーっ!!」
男前さんはなんだか声にならない悲鳴をあげて真澄ちゃんもろとも地面へと沈んだ。

あ、千秋様って真澄ちゃんのアポロン。

大好きな人。

前の飲み会の時ずーっと千秋様がいかにすばらしいか聞かされたので覚えちゃいましたヨ。
この男前さんが千秋様なんデスね。

ぽんと手を打つと軽い笑い声が背後で響いた。
「やだ、真澄ちゃん。そんなにしたら千秋君死んじゃうわよ。」
本気で止める気のない面白そうな声。
振り返ると美人の清良ちゃん。

「のだめちゃんお待たせー。」
屈託のない笑みを浮かべ清良ちゃんは笑う。
後ろでは真澄ちゃんがアポロンに怒られてる。

清良ちゃんと2人を交互に見ると、口を開く前に清良ちゃんに軽く笑われる。
「騒がしくてごめんねー。ほら2人とも、いー加減にしなさいよ?」
半泣きの真澄ちゃんを他所に憮然とした顔でアポロンさんはまたのだめを見てマス。
それに清良ちゃんがすぐに気づいて苦笑い。
「ごめん。今日この人も一緒にごはん食べていーかな?
仕事が煮詰まってるらしく昨日からゼンゼン食べてないらしーのよ。
あ、彼は千秋真一君。私や真澄ちゃんと同じ海外事業部1課だから。」
ニコニコしている清良ちゃんとは正反対にアポロンさん、千秋さんは無表情。

「のだめデス。」
とりあえず自己紹介してみると千秋さんは少しだけ頬をピクリと動かした。
「どーも。」
ぶっきらぼうな声。
低いのによく通る不思議な響き。

なんだか脳に染み込んでくみたいな音。

ああ、なんかとっても安心する声だなと思った。

初めてなのに初めてじゃない懐かしいような声音に少しうっとりと聞きほれた。

チラリと綺麗な顔を盗み見ながらカフェに移動。
お洒落なカフェにはお昼時だからかたくさんの人がいた。
何とか席につき注文をすますと清良ちゃんが千秋さんの紹介を改めて始めた。

「千秋君はねー私と真澄ちゃんと同期で一番の出世頭なのよー。
入社3年目にして海外事業部1課の主任様なんだから。」
「素晴らしいですわ、千秋様!!
のだめ、あんたなんか普通なら同じテーブルでご飯食べる事なんて出来ないんだからね!!」

清良ちゃんの言葉に興奮気味に真澄ちゃんが言葉を付け加える。
私はただほえ〜と声を出しながら千秋主任をみた。

あ、また目が合っちゃった。

「千秋君、のだめちゃんはねー。あ、のだめちゃんって言うのはニックネームで本名は野田恵ちゃんって言うのよ。
たまに飲みに行くんだよねー。所属は庶務4課なのよ。」
千秋主任は目をそらさないまま庶務か…と呟く。

なんだかへんな感じ。
なんでこんなにのだめの事見るのかな??
気のせい??

グルグル考えながら適当におしゃべりをしているうちに料理が運ばれてきた。
どれもおいしそう。

目の前のご飯に頭の中に浮かんでた疑問とか綺麗さっぱり消えちゃいました。

サラダ
コンソメスープ
モッツァレラチーズのトマトクリームパスタ
イチゴのタルト

でもうきゃーとなっている気分がある一点を見た瞬間に萎んでしまう。

サラダに入ってる赤いツヤツヤしたの。

生トマトー!!

心の中で絶叫。
のだめなんでも食べれますけど、生トマトちゃんだけはダメ。

別に残したっていいと思うけどなんとなく残しづらくておいしそうに頬張っているみんなを
見つつフォークでトマトをちょんって突付くとその瞬間向かい側に座ってた千秋主任とまた目が合っちゃいました。

こ、これは食べなきゃマズイですね…
だって、睨むみたいにジーって見てマスヨ!!?

『いい歳してトマトも食えないのか!?』

心の声が聞こえマスーっっ!!
少し怯えながら強迫観念に駆られているとおもむろに千秋主任はのだめを見たまま口を開きました。

「トマトくれない?」

急に言われた言葉にビックリ。
予想外の内容にもビックリ。
二重のビックリデスヨ??
のだめは何度も瞬きをしちゃいました。
千秋主任は言ってから恥ずかしくなったのかほんの少し頬が赤くなってマス。

意外とかわいいーデス。

「千秋君ってトマト好きだったっけ??」
ちょっと驚いたように言う清良ちゃん。
「いや、最近ビタミン不足だなーと思って…」
「それでしたらもっと早く仰って下されば私も差し上げましたのにー!!」
真澄ちゃんは千秋主任の言葉にキィーってなって悔しげにハンカチを噛んでる。
食べちゃったんですね。

そして千秋主任はこっちをチラリ。
「イヤならいーけど…。」

さっきまでちょっと怖かったけど、この人ちょっとかわいーデス。
ツボです!!
ストライクデス!!

のだめにフィアンセがいなかったらドッキドキーってなってたかもしれません。
そして断る理由もなければ、寧ろどーぞどーぞな状態のトマトちゃんは千秋主任のお腹の中に。

ふぃー助かりました。
その他はもう絶品!!
幸せデスー!!

パスタを食べ終わってそろそろデザートに手を伸ばそうとした時、
のだめのトレーに向かいからコトリとお皿が乗せられました。
お皿にはプルプルでおいしそーなプリンちゃん。
顔を上げるとやっぱりまた少し顔の赤い千秋主任。
「さっきトマトもらったから…。俺甘いもん苦手だし…、よければどーぞ。」
「いーんデスカ?」
「うん。」
「うきゃーっっ!!ありがとーございマスっ!!」

甘いもの大好きなのだめにはまさに天国。
おいしいイチゴのタルトにプリン!!
至福〜。

満面の笑みで悔しがる真澄ちゃんを無視してプリンを頬張ってると少し優しげな目でのだめを見ている
千秋主任と目が合う。

その優しげな笑顔に心臓が跳ねる。

ふわぁっ。
なんか、なんだか、心臓止まっちゃうかと思いましたヨ。
キレーな顔の人があんなに優しげな表情すると、もーヤバイデス!!
鼻血出そーデス。

プリンのお皿を持ったままぽかんと見とれちゃってます。
さぞかし間抜けな顔を晒していたのか、千秋主任はおかしそうに噴出してのだめの方へと手を伸ばしてきました。

「ついてるぞ。」
伸びてきた手の親指に頬を掠められる。
「ヤダ、のだめ!!いい年して食べ物顔につけるんじゃないわよ!!?
千秋様のお手を煩わせるなんてーっっ!!」

怒ってる真澄ちゃんは気づかない。
のだめの頬についてたプリンのかけら。
千秋主任は取ってくれた親指をペロリと舐めちゃいました。

はぅーっ。
なんか千秋主任って色気満載??
天然ですかね??
その天然お色気攻撃でたくさんの女の子をメロメロにしてきたに違いありませんっ!!
恋愛レベルの低いのだめには刺激が強すぎます。

フィアンセがいるのに他の人にこんなにドキドキしちゃうなんてのだめはダメな子デス…
でも、やっぱりドキドキームラムラーって感じ。

こんな刺激的なランチを始めて体験しました。

そんな千秋主任とのだめを楽しそうに見ている清良ちゃんには気づかずにちょっとだけ顔を
赤くしたのだめは千秋主任ににっこりと笑顔をあげました。

…これくらいは許してくれますよね。
フィアンセに心の中で手を合わせた。

 

 

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