なんででしょう??
自分でも不思議。

「…千秋主任のお家がいーデス。」

って気づいたら言ってマシタ。
清良ちゃんのおうちの方がきっとリラックス出来そうなのに。
でも送ってくれたり、お掃除一緒にしたりしてるとなんだかすごく居心地が良くてもっと一緒に
いたいなぁなんて思っちゃったんデス。

別にストーカーなんて全然怖くないし、あのストーカーさんはすっごくイイ人なんで大丈夫なんだけど、
お泊りなんて久しぶりでちょっと楽しみになりマシタ。

それで千秋主任ってお洒落だしかっこいいし、几帳面だし、お掃除上手だしきっとお洒落なマンションに住んでるんだろ
なぁって楽しみにしてたんデス。

………だけど、これは予想外。

いったいこのマンション幾らですか??

車で連れて来てもらったのは一生係わり合いになることは無いと思ってた高級マンション。
広いエントランスにこれまたキレーで広いエレベーター。
しかも建物の中はどこもかしこもピッカピカデス。

極めつけは各階に数部屋しかないヒローイお部屋。

「ふおぉーっ!!」
思わず胸の前で手を組んで叫んじゃいマシタヨ。

ドアを開けていた千秋主任は呆れた顔でのだめを見下ろしてから、さっさと一人で部屋に入って行っちゃいます。
のだめも慌ててその後を追いました。

「しゅごーい!!」
入った瞬間絶叫!!
のだめこんな広いおうち入ったの初めてデス!!
広いお部屋はシンプルな家具でまとめられていてまるでホテルみたい。
前にテレビで見た一泊何十万っていうホテルがこんなだった気がシマス。
きょろきょろと見回し軽い足取りで部屋をぐるっと一周。

まるでお姫様になった気分デス。

千秋主任は呆れたようなおかしいような微妙な顔ではしゃぐのだめをソファーに座って見てました。
嫌味な人デス。
こんなところにいても違和感なくハマっちゃえてるんですから。

「ほら、いいかげんにしろ。」
「だってスゴイですよーっっ!!」
「夜中に騒ぐな。明日も仕事なんだから取り合えず今日は風呂入って寝るぞ。」
千秋主任は立ち上がってのだめの荷物を持ち手招きしてます。
呼ばれると何故か嬉しくてぴょんぴょんと跳ねて傍まで行くと手を掴まれました。
大きな手。
はぅードキドキ。

千秋主任に連れられてきたのはリビングの隣のお部屋。
かなり広いのに部屋にはベッドとソファーがあるだけ。
寝室デスカネ?
のだめが見上げると千秋主任は笑って部屋の向こうにあるドアを指差しました。
「お前はこの部屋を使え、あそこがバスルームになってるから。」
「千秋主任はどこで寝るんですか?」
「俺は自分の寝室で寝る。リビング出て一番奥だからなんかあったら呼んで。」
「ここは?」
「普段使ってねーけど、一応客間かな?」
最悪デス。
さらりと言う主任にちょっぴり殺意。
だってこの部屋、のだめの実家の一番大きい部屋の優に2倍はアリマスヨ!!
ここが客間だったら千秋主任のお部屋はどーなってるんでしょう??

「主任ってお給料イインデスカ??」

のだめの言葉に出て行こうとしていた千秋主任は振り返りマシタ。
そして頭をガシガシ。

「おまえなぁ。」
「だってこんな広いおうちに住めるもんなのか気になりマスヨ〜。」
呆れ気味の千秋主任。
だけど気になるものは気にナリマス!!
のだめが引かないと思ったのか千秋主任は渋々口を開きました。
「はぁ。ここは俺が遺産相続で継いだマンション。じいさんが生前購入してたらしいけど
他に住む人間がいないから俺が継いだだけ。俺のモノってって言うよりは家のもんって感じだな。」
「おうち、お金持ちなんですねー。」
スゴイです。
頭が良くて、仕事が出来てかっこよくてお金持ち。
世の女性たちはほっときませんね。

あ、余計なこと気になり始めちゃいました。

「イインデスカ??」
「は?」
「彼女さんトカ…。」
のだめの言葉に千秋主任は笑ってぽんぽんと頭を叩かれました。
「変な気ぃ使わなくていーよ。今は彼女もいねーし。」

笑う顔にトキメキ。
こんなにステキなのに彼女さんがいないなんて勿体無いデス。
のだめには心に決めた人がいるんで好きになったりしないデスケド、
もし誰も好きな人がいなかったらきっとはぁはぁしちゃったと思いマス。

それぐらい断言できるほどしゅてきデス。

「さっさと寝ろよ。」
そう言って今度こそ部屋から出て行っちゃいました。
出て行ったドアをしばらく見つめてから、荷物をベッドに投げてお風呂へ直行。

お風呂も普段使っていない部屋のものなのに広くてビックリ。
シャンプーとかトリートメントとかもちゃんと揃ってるし、とってもキレー。
比べちゃうのは貧乏くさいと思うけど、やっぱりのだめの実家のお風呂より広いデス。

こんなにどこもかしこも広かったら落ち着きませんねー。

そわそわとあたりを見回しちゃいますよ。

なんだか広すぎてゆったり寛げるはずの空間で妙に心細くなって慌てて体を洗って外へと出ちゃいました。
パジャマがわりのキャミとショートパンツに着替えてこれまた大きなベッドへダイブ。
ふわふわやわらかベッドデス。
枕もふわふわの羽毛枕で気持ちいー。
ちょっと心細くて柔らかい枕を抱きしめて清潔な白いシーツへと額を擦り付けて目を閉じます。
もう深夜も深夜。
とーっても遅い時間。
今日は色々なことがあって疲れちゃってるはずだからすぐに眠気がきそうなものなのに目を瞑っても
一向にそれは来てくれません…
それどころかどんどん目は冴えちゃって、頭に浮かぶのは千秋主任の顔ばかり。
ありゃりゃ??
何ででしょう??
今日見たいろんな顔の千秋主任が現れては消えていきマス。
するとなんだかちょっと心が暖かくなってきた気がします。
不安だった気持ちがちょっと浮上してほっこりと優しい気持ち。
なんだかちょっと安心してきました。

でもやっぱりこの部屋は広すぎてのだめは落ち着けません。

がばっと勢い良くベッドから体を起こして枕を抱えたまま飛び降りました。
向かうはドア。
ドアを開けてリビングを突っ切ってさっき教えてもらった千秋主任の寝室を目指しマス!!

ズンズンと枕を抱えたまま向かった目的地まで来るとドアをノック。
すぐに低い声がしてドアが開けられました。
出てきたのはもちろん千秋主任。
お風呂上りなのか少し髪が濡れています。
それに見た事のないTシャツにハーフパンツ姿。
むむっ。
こんなカッコでもかっこよく見えちゃうなんてずるいデス。

のだめが不公平だと思っているとその千秋主任、
何故だかドアを開けて外にいたのだめを見た瞬間固まっちゃいました。
そして次の瞬間。

「おまっ!!?なんてカッコしてんだっっ!!?」

大きな怒鳴り声。
いくら広いマンションだからって近所迷惑デスヨ。

「むぅ。なんてカッコって、寝巻きデス。」
変なかっこしてるみたいに言われるのは心外デス!!
これ一応おニューのキャミなのに…
「寝巻きだろーがなんだろーが普通男の前にそんなカッコで出てくんな!!」
千秋主任は眉間に皺寄せて怒ってマス。
怒りのせいか、顔は真っ赤。
そんなに怒る事じゃないと思いますけど…
外にこのかっこで出るわけじゃないし。

「っとに…。って言うかお前髪濡れっぱなしじゃねーか!ちゃんと拭け!!」
また怒鳴りだした主任にのだめはぷうっとほっぺたを膨らませました。
なんでこんなに短気なんでしょー??
「いつも自然乾燥だから大丈夫デス!」
「あほか!風邪ひくだろーが!っとにちょっとこっち来い。」
呆れたように千秋主任はそう言うと部屋の中に入って行っちゃいました。

これは入ってもいいってことデスカネ??

主任がドアの前から消えた後顔だけ部屋の中に突っ込んでみる。

「ほわ〜。」

すごい。
やっぱり客間より広くて大きなベッドがどーんと部屋の中に置かれてマス。
あんまりモノはないデスネ。

「何やってんだ、入ってきてそこに座れ。」
千秋主任に呼ばれ恐る恐るお部屋に侵入。
指されたベッドに腰を下ろします。

広いお部屋に憧れたけど、こんなに広くっちゃやっぱ落ち着きませんね。
抱えていた枕をギュッと抱きしめました。

「ぎゃぼ!?」
キョロキョロと部屋を見回していると急に頭上から何かが降ってきて視界が塞がれちゃいました。
いきなりの事に抱きしめていた枕を落として降ってきたモノを掴むと柔らかな感触。
「た、タオル??」
「何暴れてんだ?拭いてやるから大人しくしとけ。」
少しだけずれたタオルの隙間から見上げると呆れたような千秋主任の顔。
小さく笑いのだめの髪を優しく拭いてくれます。

「ふぁー。きもちーデス。」
「そりゃよかったな。」
「ハーイ。」

さっき怒鳴られた事も忘れてご機嫌で返事をすると苦笑する声。

ああ、やっぱり千秋主任の声って安心シマス。
聞いてるだけでほにゃ〜って感じ。

「ほら、出来たぞ。」

そう言ってタオルと心地よい手の感触が離れて行っちゃいました。
ああ、もっとしてほしかったデス。

残念に思って見上げると優しい目がのだめを見てました。
ドキドキしちゃいマス。

「ありがとーゴザイマス。」
「どういたしまして。女なんだから髪ぐらいちゃんとしろよ。」
「うー。苦手デス…。」
気まずげに視線を泳がせるとまた笑われちゃいました。

「まぁ、うちにいる間はやってやるよ。」
「ホントデスカ??」
「ああ。そのかわり言う事聞けよ?」
「ハーイ。」

元気よく手を上げてお返事したら頭をポンポンって撫でてくれました。

ちょっぴり幸せ。

あれ?
なんでデスカネ??

でも…、幸せならいーデスヨネ。

「で、もう夜中だぞ?何の用だ?」
主任がタオルを片付けながら聞いてきたことにのだめはやっと目的を思い出しました。

「のだめ、広いお部屋じゃ落ち着かなくってー。」
「は?」

「一緒に寝てクダサイ!」

にっこり笑うと千秋主任は手に持っていたタオルをパサリと床に落としちゃいました。
しかもなんでか目を見開いて。

「ダメデスカ?」
「ダメってお前…」
「のだめにはあのお部屋広すぎて寝れないんデスー!オネガイシマス!!」
下から見上げたら困ったような複雑な顔の千秋主任。
あともう一押しデスカネ??

「のだめ寝相はイイデスから!!」

ギュッと手を前で組んで見あげると千秋主任ははぁーっと大きく息を吐き出しました。

「…大人しく寝ろよ?」
「ハーイ。」

ふかふかの大きな千秋主任のベッドは主任の匂いがしてとっても安心して寝れました。

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